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2017.05.19
特許・実案 日本 判決・審決
最高裁判決(マキサカルシトール製法事件)

最高裁 平成29年3月24日判決(平成28年(受)第1242号)

原審:知財高裁・大合議 平成28年3月25日判決(平成27年(ネ)第10014号)

 

[医薬品分野において,特許発明と均等であることを理由として,特許権の侵害が認められた事例]

 

1.事件の概要

本事件は,発明の名称を「ビタミンDおよびステロイド誘導体の合成用中間体およびその製造方法」とする本件特許(特許第3310301号)を有する被上告人(原審被告)が,上告人(原審原告)らの輸入販売等に係る医薬品の製造方法は,本件特許に係る特許請求の範囲に記載された構成と均等なものであると主張して,上告人らに対し,当該医薬品の輸入,譲渡等の差止め及びその廃棄を求めた事案である。

これに対し,上告人らは,本事件では,特許権侵害訴訟における相手方が製造等をする製品又は用いる方法(以下,「対象製品等」という。)が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの「特段の事情」が存在するから,上記医薬品の製造方法は,上記特許請求の範囲に記載された構成と均等なものであるとはいえないと主張して,被上告人の請求を争ったものである。

原審(知財高裁・大合議 平成28年3月25日判決(平成27年(ネ)第10014号))では,上記医薬品の製造方法が上記特許請求の範囲に記載された構成と均等なものであるとして均等侵害を認め,原審原告らの請求を棄却した。そこで,原審原告らが,これを不服として最高裁に上告した。

 

2.本件特許と対象製品等

本件特許発明は,出発物質を特定の試薬と反応させて中間体を製造し,その中間体を還元剤で処理して目的物質を製造するという化合物の製造方法である。特許請求の範囲において,目的化合物を製造するための出発物質等としてシス体のビタミンD構造のものを記載していた。対象製品等は,本件発明の試薬及び目的物質に係る構成要件を充足するが,出発物質及び中間体の炭素骨格が,シス体のビタミンD構造ではなく,その幾何異性体であるトランス体のビタミンD構造であるという点で,本件発明の出発物質及び中間体に係る構成要件と相違する。

 

 

3.裁判所の判断

 最高裁判決では,原審が支持され,均等侵害が認められた。均等については,最高裁平成10年2月24日判決・平成6年(オ)第1083号(ボールスプライン事件)において,均等が認められるための5つの要件が示されている。本事件の最高裁判決では,このうち,第5要件の考え方が医薬分野において示された。

 

(1)知財高裁・大合議(原審)の判断

ボールスプライン事件(最高裁判決)の均等の第5要件は,対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの「特段の事情」がないことである。

原審では,この点について,「特許請求の範囲に記載された構成と実質的に同一なものとして,出願時に当業者が容易に想到することのできる特許請求の範囲外の他の構成があり,したがって,出願人も出願時に当該他の構成を容易に想到することができた」としても,そのことのみを理由として,出願人が特許請求の範囲に当該他の構成を記載しなかったことが第5要件における「特段の事情」に当たるとはいえないとした。

もっとも,このような場合であっても,「出願人が,出願時に,特許請求の範囲外の他の構成を,特許請求の範囲に記載された構成中の異なる部分に代替するものとして認識していたものと客観的,外形的にみて認められるとき」(例えば,出願人が明細書において当該他の構成による発明を記載しているとみることができるときや,出願人が出願当時に公表した論文等で特許請求の範囲外の他の構成による発明を記載しているとき)には,出願人が特許請求の範囲に当該他の構成を記載しなかったことは,第5要件における「特段の事情」に当たるとした。

 

(2)最高裁の判断

最高裁は,「出願人が,特許出願時に,特許請求の範囲に記載された構成中の対象製品等と異なる部分につき,対象製品等に係る構成を容易に想到することができたにもかかわらず,これを特許請求の範囲に記載しなかった」という場合であっても,それだけでは,「対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外された」などの「特段の事情」が存在するとはいえないとした。

ただし,そのような場合であっても,「出願人が,特許出願時に,その特許に係る特許発明について,特許請求の範囲に記載された構成中の対象製品等と異なる部分につき,特許請求の範囲に記載された構成を対象製品等に係る構成と置き換えることができるものであることを明細書等に記載する」など,「客観的,外形的にみて,対象製品等に係る構成が特許請求の範囲に記載された構成を代替すると認識しながらあえて特許請求の範囲に記載しなかった旨を表示していた」といえる場合には,「明細書の開示を受ける第三者も,その表示に基づき,対象製品等が特許請求の範囲から除外されたものとして理解する」として,「当該出願人において,対象製品等が特許発明の技術的範囲に属しないことを承認したと解されるような行動をとった」ということができるとした。

また,このようなときに「特段の事情」が存存することは,「発明の保護及び利用を図ることにより,発明を奨励し,もって産業の発達に寄与するという特許法の目的にかない,出願人と第三者の利害を適切に調整するものである」とした。

こうして,最高裁は,「出願人が,特許出願時に,特許請求の範囲に記載された構成中の対象製品等と異なる部分につき,対象製品等に係る構成を容易に想到することができたにもかかわらず,これを特許請求の範囲に記載しなかった」という場合において,「客観的,外形的にみて,対象製品等に係る構成が特許請求の範囲に記載された構成を代替すると認識しながらあえて特許請求の範囲に記載しなかった旨を表示していた」といえるときには,対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの「特段の事情」が存在するとした。

 

(3)最高裁判決の結論

最高裁は,事実関係等に照らして,被上告人が,「本件特許の特許出願時に,本件特許請求の範囲に記載された構成中の上告人らの製造方法と異なる部分」について,「客観的,外形的にみて,上告人らの製造方法に係る構成が本件特許請求の範囲に記載された構成を代替すると認識しながらあえて本件特許請求の範囲に記載しなかった旨を表示していた」という事情があるとはいえないとして、「特段の事情」の存在を否定した。

 

4.所感

今回の最高裁判決は,医薬分野のクレーム解釈において,最高裁が初めて均等侵害を認めた事案である。最高裁では,概ね原審の判断が容認される結果となったが,「特段の事情」の具体例として原審に示されていた「出願人が出願当時に公表した論文等で特許請求の範囲外の他の構成による発明を記載しているとき」は,最高裁判決には示されていない点など,両判決にやや異なる部分もある。

先発型メーカーにとっては,特許出願における明細書等の作成において,今回の最高裁判決に示された考え方に基づいて,均等侵害の可能性を排除しないように配慮することが重要になる。また、最高裁判決により医薬分野において均等侵害が認められる可能性が示されたことで,特許の取得と活用についての重要性が高まり,イノベーションの推進に拍車がかかることが期待される。

本事件の最高裁では,均等の第5要件における「特段の事情」の有無が争点になったが,原判決で示されていた第1要件については,最高裁判決で示されていない。均等侵害についての予見可能性を高めるためには,均等侵害の他の要件を含めて,引き続き判例の蓄積が必要であり,今後の判例の動向に注目したい。

 

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/634/086634_hanrei.pdf


 

 

参考

 

均等侵害における第1要件~第5要件について

<最高裁平成10年2月24日判決・平成6年(オ)第1083号(ボールスプライン事件)>

 

 

特許請求の範囲に記載された構成中に,相手方が製造等をする製品又は用いる方法(対象製品等)と異なる部分が存する場合であっても,第1要件~第5要件を全て満たす場合には,同対象製品等は,特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして,特許発明の技術的範囲に属する。

 

 

1.第1要件:非本質的部分

特許請求の範囲に記載された構成と対象製品等の異なる部分が特許発明の本質的部分ではないこと

 

2.第2要件:置換可能性

上記の部分を対象製品等におけるものと置き換えても,特許発明の目的を達することができ,同一の作用効果を奏するものであること

 

3.第3要件:置換容易性

上記のように置き換えることに,当該発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)が,対象製品等の製造等の時点において容易に想到することができたものであること

 

4.第4要件:公知技術との同一性又は容易推考性

対象製品等が,特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから当該出願時に容易に推考できたものではないこと

 

5.第5要件:特段の事情

対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情がないこと

 

 

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