2025.10.14

【米国】PTABにおけるIPRおよびPGRの裁量却下の新たな枠組みについて

 米国特許商標庁(USPTO)は、特許審判部(PTAB)における裁量却下の運用について、以下の通り変更を行いました。

1.2022年メモランダムの撤回
 USPTOは、2022年の「AIA付与後手続における裁量却下に関する暫定手続」のメモランダムを撤回しました。
 これにより、PTABが当事者系レビュー(IPR)および付与後レビュー(PGR)の裁量却下の可否を判断する際に、Fintiv要素(*1)が再び重視されます。従来は、特許性を否定する強力な証拠またはSotera合意書(*2)の提出等により裁量却下を回避できる余地がありましたが、今後は、これらだけでは必ずしも裁量却下を回避できず、Fintiv要素を含めた総合的評価により判断されます。

(*1) Fintiv 要素:裁判所または米国国際貿易委員会(ITC)での並行訴訟がある場合に、PTABがIPRの裁量却下の可否を判断する際に考慮される6つの要素。並行訴訟の期日とPTABの最終決定期限の近接性、争点の重複度、当事者の同一性などが含まれる。
(*2) Sotera 合意書:IPRの請求人が、IPRと同じ争点またはIPRで合理的に主張できたであろう争点を並行訴訟において主張しないことを約束する文書。

2.IPR開始決定に関する新たな手続の導入
 IPRの開始決定にあたり、実体審理に先立ち、長官と3名の審判官が裁量却下の可否を判断する新たな手続が導入されました。
 長官らがIPRの開始を決定した場合のみ、実体審理が開始されます。この手続では、両当事者は書面を提出する必要があり、これらの書面提出後に裁量却下の可否が判断されるため、IPRに要する費用および時間の負担が増加する可能性があります。

3.実務上の留意点
 これらの変更により、
(i) 並行訴訟がある案件ではPTABでの裁量却下のリスクが高まる
(ii) IPRに要する費用および時間の負担が増加する
 と考えられ、IPRの実効性が低下する可能性があります。

(参考)
Jetro HP:「USPTO、PTAB の審理開始決定手続に関する方針を公表

(井上 稔)