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【日本】知財高裁平成25年9月19日判決(平成24年(行ケ)第10433号)

IPニュース 2014.03.28
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本件は、拒絶査定不服審判を請求したところ請求不成立の審決を受けた原告が、審決取消訴訟を提起した事例である。争点は、数値範囲(除くクレーム)の相違について、実質的に同一であるといえるか否かという点である。

1.本願発明と先願発明
本願発明は、発明の名称を「太陽電池用平角導体及びその製造方法並びに太陽電池用リード線」とする特許出願(特願2004-235823号)であり、請求項1に記載された発明(以下、本願発明)は以下のとおりである。

【請求項1】
「体積抵抗率が50μΩ・mm以下で,かつ引張り試験における0.2%耐力値が90MPa以下(ただし,49MPa以下を除く)であることを特徴とする太陽電池用平角導体。」

【本願発明】

これに対して、先願基礎出願(特願2004-152538号)に記載された発明(先願基礎発明)は,次のとおりである。
「体積抵抗率が2.3μΩ・cm以下で,かつ耐力が19.6~49MPaである太陽電池用芯材」

【引用発明】
(注)1A:電極線材、2A:芯材、3A,3B:溶融はんだめっき層、4:中間層、5A,5B:銅層(第1表面層、第2表面層)

また、本願発明と先願基礎発明について、審決が認定した一致点及び相違点は、以下の通りである。
<一致点>
体積抵抗率が50μΩ・mm以下で,かつ引張り試験における0.2%耐力値が90MPa以下である太陽電池用平角導体
<相違点>
本願発明は,引張り試験における0.2%耐力値について,「(ただし,49MPa以下を除く)」とされている点

審決
先願基礎発明は,芯材を低耐力材とすることにより,半導体基板にはんだ付けする際に生じる熱応力を軽減解消することができ,半導体基板にクラックが生じ難くするものであり,芯材の耐力について,半導体基板にクラックが生じない範囲として49MPa以下に特定したものであるが,クラックの発生が芯材の耐力によってのみ影響されるものでないことは当業者に明らかであり,さらに,半導体基板の厚さにも依存するものであると認められるから,上記耐力の範囲は,中間層の構成や半導体基板の厚さ等に応じて適宜決定されるべき設計事項というべきであり,芯材の耐力が49MPa以下である構成は,かかる設計事項を特定したものである。
そうすると,前記相違点に係る本願発明の構成である「(ただし,49MPa以下を除く)」とされる点は,先願基礎発明において適宜決定されるべき設計事項の相違にとどまるものであって,技術的思想すなわち発明として格別の差異を生じるものとは認められない。
したがって,本願発明は,先願基礎発明と実質的に同一のものというべきである。

3.裁判所の判断
本願発明と先願基礎発明とは,体積抵抗率が23μΩ・mm以下である太陽電池用平角導体である点で一致する(その点で,体積抵抗率が50μΩ・mm以下で,かつ引張り試験における0.2%耐力値が90MPa以下で一致するとする本件審決の認定は相当ではない。)にすぎず,引張り試験における0.2%耐力値については,本願発明は90MPa以下で, かつ49MPa以下を除いているため, 先願基礎発明の耐力に係る数値範囲(19.6~49MPa)を排除している。したがって,本願発明と先願基礎発明とは,耐力に係る数値範囲について重複部分すら存在せず, 全く異なるものである。

先願基礎明細書には,太陽電池用平角導体の0.2%耐力値を,本願発明のように,90MPa以下(ただし,49MPa以下を除く)とすることを示唆する記載はない。また,半導体基板に発生するクラックが, 半導体基板の厚さにも依存するものであるとしても, 耐力に係る数値範囲を本願発明のとおりとすることについて,本件出願当時に周知技術又は慣用技術であると認めるに足りる証拠はないから, 先願基礎発明において,本願発明と同様の0.2%耐力値を採用することが,周知技術又は慣用技術の単なる適用であり,中間層の構成や半導体基板の厚さ等に応じて適宜決定されるべき設計事項であるということはできない。したがって,本願発明と先願基礎発明との相違点に係る構成(耐力に係る数値範囲の相違)が,課題解決のための具体化手段における微差であるということはできない。

両発明は,はんだ接続後の熱収縮を,平角導体(芯材)を塑性変形させることで低減させる点で共通しているものの,本願発明は,セルの反りを減少させることに着目して耐力に係る数値範囲を決定しており,他方,先願基礎発明は,半導体基板に発生するクラックを防止することに着目して耐力に係る数値範囲を決定しているのであって,両発明の課題が同一であるということはできない。

4.所感
審査基準では、実質同一について「請求項に係る発明の発明特定事項と引用発明特定事項とに相違がある場合であっても、それが課題解決のための具体化手段における微差(周知技術、慣用技術の付加、削除、転換等であって、新たな効果を奏するものではないもの)である場合(実質同一)は同一とする。」とされている。
本件では、判決において、数値限定における除くクレームについて、上記「微差」における、解決課題の相違の考え方が示されている点で重要である。今後は、このような事例において、「微差」に該当しないことを主張するためには、両者の数値範囲が重複しないことを説明するだけでなく、両者の解決課題が相違する点についても主張することが有効であろう。

http://www.ip.courts.go.jp/hanrei/pdf/20130919164414.pdf

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