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【日本】損害賠償額の算定の考え方として特許法102条1項の解釈を示した知財高裁・大合議判決

IPニュース 2020.06.09
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知財高裁(大合議)令和2年2月28日判決(平成31年(ネ)第10003号)

損害賠償額の算定の考え方として
特許法102条1項の解釈を示した知財高裁・大合議判決

1.事件の概要
(1)事件の経緯
 この事件は、発明の名称を「美容器」とする2つの特許権(特許第5356625号、及び、特許第5847904号。各々、本件特許権1、及び、本件特許権2という。)を有する一審原告が、一審被告に対し、被告製品(9種類の美容器)の製造・販売等をすることは、本件各特許権を侵害すると主張して、差止め、及び、損害賠償などを求めた事案である。
 原審(大阪地裁平成30年11月29日判決(平成28年(ワ)第5345号))は、被告製品の製造・販売等は、本件特許権2を侵害すると判断したうえで、被告製品の製造・販売等の差止めを認めるとともに、損害賠償請求の一部を認めた。
 これに対して、一審原告及び一審被告の双方は、原審の判断を不服として、知財高裁に控訴した。

(2)本件特許発明
 本件特許権1及び本件特許権2の特許請求の範囲は、以下に示すとおりである。(以下、本件特許権1の請求項1に係る発明を「本件発明1」といい、本件特許権2の請求項1に係る発明を「本件発明2」という。)。

<本件特許1>
 【請求項1】ハンドルの先端部に一対のボールを、相互間隔をおいてそれぞれ一軸線を中心に回転可能に支持した美容器において、往復動作中にボールの軸線が肌面に対して一定角度を維持できるように、ボールの軸線をハンドルの中心線に対して前傾させて構成し、一対のボール支持軸の開き角度を65~80度、一対のボールの外周面間の間隔を10~13mmとし、前記ボールは、非貫通状態でボール支持軸に軸受部材を介して支持されており、ボールの外周面を肌に押し当ててハンドルの先端から基端方向に移動させることにより肌が摘み上げられるようにしたことを特徴とする美容器。

                 
                   【図1】           【図2】
  

<本件特許2>
 【請求項1】基端においてハンドルに抜け止め固定された支持軸と、前記支持軸の先端側に回転可能に支持された回転体とを備え、その回転体により身体に対して美容的作用を付与するようにした美容器において、前記回転体は基端側にのみ穴を有し、回転体は、その内部に前記支持軸の先端が位置する非貫通状態で前記支持軸に軸受け部材を介して支持されており、軸受け部材は、前記回転体の穴とは反対側となる先端で支持軸に抜け止めされ、前記軸受け部材からは弾性変形可能な係止爪が突き出るとともに、軸受け部材は係止爪の前記基端側に鍔部を有しており、同係止爪は前記先端側に向かうほど軸受け部材における回転体の回転中心との距離が短くなる斜面を有し、前記回転体は内周に前記係止爪に係合可能な段差部を有し、前記段差部は前記係止爪の前記基端側に係止されるとともに前記係止爪と前記鍔部との間に位置することを特徴とする美容器。

 

                        

                                           【図1】            【図2】

(3)争点
 この事件では、損害額のほか、特許侵害の有無、特許権の有効性などが争点になったが、以下では、損害額について解説する。

3.知財高裁・大合議判決
(1)「侵害行為がなければ販売することができた物」について
 本判決では、特許法102条1項本文における「侵害行為がなければ販売することができた物」とは、「侵害行為によってその販売数量に影響を受ける特許権者等の製品、すなわち、侵害品と市場において競合関係に立つ特許権者等の製品であれば足りる」と判示した。

(2)「単位数量当たりの利益の額」について
 本判決では、特許法102条1項本文における「単位数量当たりの利益の額」は、「特許権者等の製品の売上高から、特許権者等において上記製品を製造販売することによりその製造販売に直接関連して追加的に必要となった経費を控除した額(限界利益の額)」であると判示した。

(3)「実施の能力に応じた額」について
 本判決では、特許法102条1項における「実施の能力」について、「潜在的な能力で足り、生産委託等の方法により、侵害品の販売数量に対応する数量の製品を供給することが可能な場合も実施の能力があるものと解すべきである」と判示した。

(4)販売することができないとする事情
 本判決では、特許法102条1項ただし書における「販売することができないとする事情」について、「侵害行為と特許権者等の製品の販売減少との相当因果関係を阻害する事情」と解釈して、例えば、「①特許権者と侵害者の業務態様や価格等に相違が存在すること(市場の非同一性)、②市場における競合品の存在、③侵害者の営業努力(ブランド力、宣伝広告)、④侵害品及び特許権者の製品の性能(機能、デザイン等特許発明以外の特徴)に相違が存在すること」などの事情がこれに該当すると判示した。

(5)本件発明の寄与度を考慮した損害額の減額の可否について
 本判決では、「仮に,一審被告の主張が,これらの控除とは別に,本件発明2が被告製品の販売に寄与した割合を考慮して損害額を減額すべきであるとの趣旨であるとしても,これを認める規定はなく,また,これを認める根拠はない」として、「そのような寄与度の考慮による減額を認めることはできない」と判示した。

5.コメント
(1)特許法102条1項について
 本判決では、「侵害行為がなければ販売することができた物」、「単位数量当たりの利益の額」、「実施の能力に応じた額」、「特許権者が販売することができないとする事情」について、各々の解釈が示された。
 「侵害行為がなければ販売することができた物」については、「実施品必要説」と「競合品十分説」がある。「実施品必要説」とは、特許権者等の製品が、特許発明の実施品である必要があるとする考え方であり、「競合品十分説」とは、特許権者等の製品が、侵害品の競合品であれば足りるとする考え方であり、特許権者等の製品は、必ずしも特許発明の実施品である必要はないという立場である。本判決においては、「実施品必要説」ではなく、「競合品十分説」またはそれに近い考え方が採用されている。
 「単位数量当たりの利益の額」については、「限界利益説」と「純利益説」がある。「限界利益説」とは、利益の額について、「売上げから変動経費のみを控除した額」と解されており、原則として、発明のために要した開発投資や一般管理費等の控除を認めない考え方である。「純利益説」とは、利益の額について、限界利益からさらに研究開発費、設備投資などについても控除する考え方である。本判決では、「限界利益説」により判示されており、最近の判例の考え方に沿った判断がなされたと考えられる。
 「実施の能力に応じた額」については、「現存能力説」と「潜在的能力説」がある。「現存能力説」とは、「実施の能力」について、現存の能力であることを要する考え方であり、「潜在的能力説」とは、「実施の能力」について、潜在的な能力であっても足りるという考え方である。本判決では、「潜在的能力説」またはそれに近い考え方により判示されており、これまでの裁判例の考え方に沿った判断がなされたと考えられる。
 「特許権者が販売することができないとする事情」については、その解釈を示したうえで、「特許権者と侵害者の業務態様や価格等に相違が存在すること(市場の非同一性)」など、具体的な類型が示されており、今後の実務において参考になる。

(2)今後の実務について
 本判決では、特許法102条1項の解釈について示されたことから、損害額の予測可能性が従来よりも高まることが考えられる。
 今後は、本判決に示された判示事項を考慮して、損害額に関する実務を行うことが重要である。ただし、特許法102条1項の解釈について、さらに明確にするためには、判例の蓄積が必要であり、今後の判例の動向に注目することが大切である。
 なお、令和元年・改正特許法により、特許法102条(損害賠償額の推定)が改正され、2020年4月1日に施行されている。今後は、損害賠償額の実務において、改正特許法102条への対応も必要である。

 

https://www.ip.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/272/089272_hanrei.pdf

 

 

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