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【米国】クレーム中の「造語」が不明確であるとして無効と判断したCAFC判決の紹介

IPニュース 2021.02.19
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判決:IQASR LLC, vs WENDT CORP., Case No. 2019-2227 (Fed. Cir. Sep. 15, 2020)

1.概要
 IQASR社は、米国特許第9,132,432号(’432特許)の侵害を理由にWendt Corp.を連邦地裁に提訴しましたが、連邦地裁は、’432特許を35 U.S.C.第112条に基づき無効としました。IQASR社は、この連邦地裁の判決を不服として、CAFCに控訴しました。しかし、CAFCは、独立クレーム1における”magnetic fuzz”という用語、および、従属クレーム13における”low susceptance microparticles”という用語は不明確であるとする連邦地裁の判断を支持しました。

2.’432特許
 クレーム1および13は、以下の通りです。
Claim 1
1. A method of separation of automobile shred-der residue comprising the steps of:
 providing automobile shredder residue as a result from a ferrous sorting recovery system;
 introducing said automobile shredder residue into an auto mobile shredder residue sorting, non-ferrous recovery system;
 non-magnetically sorting magnetic fuzz from said automobile shredder residue with said automobile shredder residue sorting, non-ferrous recovery system;
 wherein said sorted magnetic fuzz is substantially free of recyclable materials.
(クレーム1
 自動車シュレッダー残渣を分離する方法であって、
 鉄選別回収システムの結果として自動車シュレッダー残渣を提供するステップと、
 前記自動車シュレッダー残渣を、前記自動車移動式シュレッダー残渣選別・非鉄回収システムに導入する工程と
 前記自動車シュレッダー残渣から、前記自動車シュレッダー残渣選別非鉄回収システムでmagnetic fuzzを非磁気的に選別する工程と、を含み、
 前記選別されたmagnetic fuzzは、リサイクル可能な材料を実質的に含まない、方法。)
Claim 13
13. A method of separation of automobile shredder residue according to claim 1 wherein said step of non-magnetically sorting magnetic fuzz from said automobile shredder residue with said automobile shredder residue sorting, non-ferrous recovery system comprises the step of non-magnetically sorting separating [sic] low susceptance microparticles from said automobile shredder residue with said automobile shredder residue sorting, non-ferrous recovery system.
(クレーム13
 クレーム1に記載の自動車シュレッダー残渣の分離方法であって、前記自動車シュレッダー残渣選別非鉄回収システムで前記自動車シュレッダー残渣から磁気ファズを非磁気的に選別するステップが、前記自動車シュレッダー残渣選別非鉄回収システムで前記自動車シュレッダー残渣からlow susceptance microparticlesを非磁気的に選別するステップを含む、自動車シュレッダー残渣の分離方法。)

 ”low susceptance microparticles”、”magnetic fuzz”について、明細書には以下のように記載されています。

“Low susceptance microparticles could be magnetic fuzz, iron oxide particles, microparticles, dust, trash, ferromagnetic particles, non- or even anti-ferromagnetic particles or the like and may even be small perhaps less than about one inch in size or the like. (column 6, lines 7-11)”(「低サセプタンス微粒子」は、「マグネティックファズ」、酸化鉄粒子、微粒子、ほこり、ごみ、強磁性粒子、非強磁性粒子または反強磁性粒子などであり得、サイズが約1インチ未満であってもよい。)
 この記載から、”magnetic fuzz”は、” low susceptance microparticles”の1種であることがわかります。

“Low susceptance microparticles may have low magnetic sensor susceptibility, may be small magnetic particles in size, or may even be non-magnetic or the like. (column 6, lines 14-16)”(「低サセプタンス微粒子」は、磁気センサー感受性が低い場合があり、サイズが小さい磁性粒子である場合があり、または非磁性などでさえあり得る。)
 この記載は、低サセプタンス微粒子が、磁気センサーの感受性が高い可能性、全く磁気を帯びていない可能性を排除していません。

“Disassociated magnetically active microparticles may be magnetic fuzz because these particles may be difficult to substantially identify. (column 6, lines 27-29)” (分離された磁気的に活性な微粒子は、これらの粒子を実質的に識別することが困難である可能性があるため、「マグネティックファズ」である可能性がある。)
 この記載からは、分離された磁気的に活性な微粒子は、「マグネティックファズかもしれない」ことがわかります。

 また、IQASR社は、訴状において、「’432特許は、「マグネティックファズ」を、自動車シュレッダー残渣であって、軽く、リサイクル不可能な成分として定義している」と主張しました。

3.CAFCの判断
 IQASR社の訴状における主張によれば、「マグネティックファズ」は、磁性を持つ「低サセプタンス微粒子」の一種であり、また、非鉄回収システムを詰まらせる「磁気的に活性な解離性微粒子」でもあると解釈される。一方、’432特許の明細書の記載によれば、「マグネティックファズ」は、磁気的に活性な解離性微粒子である低サセプタンス微粒子の一種であるが、磁気的に活性な解離性微粒子の唯一のタイプではない。
 つまり、”magnetic fuzz”の定義が矛盾しており、「何が”magnetic fuzz”を構成するかについて意味のある説明がないため、当業者は、”magnetic fuzz”がいつ存在し、どのように対処すべきかを理解できない」という地裁の見解に同意する。

 なお、IQASR社は、専門家の証言を提出し、”magnetic fuzz”は当業者にとって理解できる用語であると主張していましたが、CAFCは、「クレームの用語は、当業者が圧力をかけられたときに、その定義を明確にすることができたからといって、それが合理的に確実なものになるわけではない。」(Furthermore, a claim term does not become reasonably certain simply because a skilled artisan, when pressed, managed to articulate a definition for it.)として、考慮しませんでした。

4.実務における注意点
 ”magnetic fuzz”という用語が一般的ではなく、”magnetic fuzz”が、”low susceptance microparticles”を用いて間接的に定義されており、その”low susceptance microparticles”という用語もまた明確に定義されてなかったために、このような判断になったようです。(ただし、CAFCは、”magnetic fuzz”の明確性は、”low susceptance microparticles”が不明確である点とは関係なく、判断できるとしています。)
 クレームに造語を用いるのは避けるべきです。その技術分野で通常用いられるような単語であっても、複数を組み合わせる場合には、もう一度、造語でないかどうかを確認した方がよいと思われます。
 やむを得ず使用する場合には、明確な定義を明細書に記載することが求められます。より広く解釈されるように定義しようとするあまり、境界が明確にならないことは、十分にあり得ますので、この点は十分に留意しなければなりません。また、外部証拠(専門家の証言等)によって不明確性を解消することには、限界があると考えた方がよさそうです。

5. 参考
CAFC HP:判決文 Case 19-2227 (2020.9.15)

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