News Menu

News & Topics

【イスラエル】進歩性欠如の判断を不当として特許庁に差し戻した判決について

IPニュース 2022.05.26
  • Twitter
  • facebook

 イスラエルにおいて、医薬分野の出願における特許庁の進歩性の判断に影響を及ぼす可能性がある判決が出されました。以下に当該判決の概要をご紹介します。

判決:Intra-Cellular Therapies, Inc. v. The Patents Authority

 テルアビブ地方裁判所は、MCA 32365-05-20 Intra-Cellular Therapies, Inc. v. The Patents Authorityの件で、ルマテペロントシル酸塩(Lumateperone tosylate)の結晶体に関する発明の特許付与を拒否した特許庁長官の決定を覆す画期的な判決を下した。この判決には、進歩性の分析方法に関するガイドラインが含まれている。本件は、再度の審理のため特許庁長官に差し戻された。

 この判決は、製薬会社にとって進歩性の要件を満たすための負担が重くなりすぎないようにする必要がある、との考え方を採用する。薬学分野の研究開発費は高額であるが、医学研究への資金投入は奨励されるべきである。特許付与の敷居が高すぎると、研究を過度に抑制する結果を招く。第二に、医療分野の発明の開発には明確な公益性がある。新薬は生活の質を向上させ、人の命を救い得る。公益のためには、医療分野の産業を奨励することが必要である。裁判所は、医薬品の分野において、「当業者が自らの創意工夫を投入することなく、その新しい発明を考慮したかどうかについて疑いがある場合には、この疑いの利益を発明者に与え、発明者にはその発明を特許登録することが許可されなければならない」と指摘した。

 判決の中で、裁判所は、発明に対する先行技術文献の開示内容の方向付けの程度に応じて、発明を3つのカテゴリーに分類している。
(a)第1のカテゴリー:一般的な記述以外には発明の実質的な方向付けを示していない先行技術文献を含む。そのような対象となる先行技術文献は非常に多い。このような状況では、比較的進歩性があると判断しやすい。「試みることが自明な」(obvious to try)テストを用いて進歩性を否定することは難しく、「成功の合理的可能性」を立証することは困難であろう。
(b)第2のカテゴリー:発明の基礎となる材料をどのように組み合わせるかについて実際の方向付けを与える先行技術文献、または特許出願の基礎となる組み合わせが平均的な当業者にとって明らかと思われ、それに照らして発明に容易に想到できる先行技術文献が含まれる。このカテゴリーに該当する発明には、特許の付与は否定される。
(c)第3のカテゴリー:先行技術文献に、それらを組み合わせることによって生じる発明への何らかの方向付けが含まれているが、そのような方向付けが十分に詳細ではなく、表向きは、それらを検討する当業者に裁量の余地が残されている状況である。このようなケースでは進歩性の判断がより困難である。その理由は、関連する材料を組み合わせることによって所望の結果を達成する可能性があることは当業者にとって明らかであるが、発明への道筋に対する詳細な方向付けが事前になされていないからである。

 これらのルールを設けた目的は、一方では明確なルールがなく後知恵を働かせることで法律判断が恣意的になる危険性と、他方では特許審査官の裁量を行使する際の柔軟性を維持する必要性とのバランスを取ることにある。第3のカテゴリーは、特許庁が進歩性を認めるか否かを判断するための裁量が最も大きい。裁判所は、このカテゴリーの複雑さは、単純な「経験則」では対応できず、その時々の状況に大きく左右されると付け加えた。また、「obvious to try」テストは、進歩性の有無を判断するための基本的なルールに代わるものではなく、補助的なテストに過ぎないと判断された。

 裁判所は、化合物を結晶化させる作業は単純ではないと評価した。したがって、実験室で従来行われていた操作を使用するとしても、それ自体で進歩性は排除されない。

 この判決により、特許審査官のためのガイドラインが修正される可能性がある。イスラエルで特許を申請している製薬会社にとっては朗報となるであろう。

(岡部 英隆)

Categories

Years

Tags