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【日本】特許権の存続期間の延長登録出願の拒絶審決(有効成分及び効能・効果が同一の先行処分の存在による)が取り消された、審決取消請求事件について

IPニュース 2009.11.14
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釜平 双美

はじめに

平成20年(行ケ)第10459号審決取消請求事件(原告:武田薬品工業(株)、被告:特許庁長官)について平成21年5月29日判決がなされた(上告中。同様の内容の第10458号および第10460号についても同日に判決がなされた。)。この判決は特許庁およびこれまでの裁判例の解釈とは全く異なるため、今後の実務に大きな影響を与えうる興味深い判決と思われる。

1.本判決のポイント

特許・実用新案審査基準によると、特許権の存続期間の延長登録の出願は「有効成分(物)及び効能・効果(用途)が同一であって製法、剤型等のみが異なる医薬品に対して承認が与えられている場合には、そのうちの最初の承認に基づいてのみ延長登録が認められる」、そして、「有効成分及びその効能・効果が同一の他の承認(例えば剤型、製法等のみが異なる承認)を受けることは、当該特許発明の実施に必要であったとは認められない」としているため、当該他の承認に基づく延長登録の出願は特第67条の3第1項第1号に該当するとして拒絶される。これまでの裁判例もこの解釈を支持している。

これに対し本判決は、先行処分に基づく存続期間が延長された特許権の効力がどの範囲まで及ぶかという点は、特第67条の3第1項第1号における特許発明の実施に政令で定める処分を受けることが必要であったか否かとの点と、常に直接的に関係する事項ではないとした。
さらに、特第67条の3第1項第1号の拒絶理由に該当するのは:①「政令で定める処分」を受けたことによっては、禁止が解除されたとはいえないこと、又は②「『政令で定める処分』を受けたことによって禁止が解除された行為」が「『その特許発明の実施』に該当する行為」に含まれないこと;のいずれか認められた場合であることを示した。

加えて、本判決は、特第68条の2(存続期間が延長された場合の特許権の効力)に規定される「政令で定める処分の対象となつた物」の「物」とは、承認された医薬品の「有効成分」ではなく、「成分」、「分量」及び「構造」によって特定された「物」であり、「当該用途に使用されるその物」というときの「用途」とは、特許法上「用途発明」として保護されるべき内容を備えていることを指すとした。そして、延長された特許権の効力は、「成分」、「分量」及び「構造」によって特定された「物」についての当該特許発明の実施(及び当該医薬品の「用途」によって特定された「物」についての当該特許発明の実施)に加え、その均等物や実質的に同一と評価される物に及ぶことを示した。

2.本事件の経緯

原告は本件発明「長期徐放型マイクロカプセル」について特許(以下本件特許)を有している。原告は有効成分:酢酸リュープロレリン、効能効果:閉経前乳癌の「リュープリンSR注射用キット11.25」についての医薬品製造承認(本件処分)を延長の理由とする特許権の存続期間の延長登録の出願をしたが、本件発明の実施に「政令で定める処分」を受けることが必要であったとは認められないとして特第67条の3第1項1号の規定により拒絶された。これは、原告が本件処分の9年前に同一の有効成分および同一の効能効果の医薬品「リュープリン注射用3.75」(先行医薬品)についての医薬品製造承認(先行処分)を受けているため、特許庁は本件処分が「特許発明の実施に政令で定める処分を受けることが必要であったとは認められない」と判断したことによる。
なお、先行医薬品が本件発明の技術的範囲に含まれないことについて当事者間に争いがなく、また、原告は先行処分に基づいて別の特許権の存続期間の延長登録をすでに受けている。

3.裁判所の判断

審決の判断には下記2点の誤りがあるとして審決を取り消す。
従来、先行処分を理由として特許権の存続期間が延長された後に、さらに処分(後行処分)がされ、後行処分があったことを理由とする延長登録の出願の可否が争われた事案においては、専ら、先行処分を理由として存続期間が延長された特許権の効力がどの範囲まで及ぶかという観点(特第68条の2)から検討されてきた。しかし、先行処分を理由として存続期間が延長された特許権の効力がどの範囲まで及ぶかという点は、特許発明の実施に政令で定める処分を受けることが必要であったか否かとの点と、常に直接的に関係する事項であるとはいえない。むしろ、特許権の存続期間の延長登録の出願を拒絶すべきとした審決の判断の当否を検討するに当たっては、特第67条の3第1項1号の要件適合性を検討することが必須である。

《誤り1:特第67条の3第1項1号該当性の誤り》

(1) 特第67条の3第1項1号の趣旨等

ア 特第67条の3第1項1号の要件

被告は、「当該処分の目的、手続等からみて当該処分を的確に行うには相当の期間を要する(特第67条2項)」ことを延長登録査定をするための要件であるかのような主張をしているが、これはどのような処分を延長の理由にするかを政令に委任するに当たって一定の制約を設けた規定であり、延長登録査定の要件ではない。特許発明の実施をすることができなかった期間が2年を超えることとの要件が廃止されたことからも明らかである。

イ 特許発明の存続期間の延長登録制度の趣旨

特許権の存続期間の延長登録の制度は、特許発明を実施する意思及び能力があってもなお、特許発明を実施することができなかった特許権者に対して、「政令で定める処分」を受けることによって禁止が解除されることとなった特許発明の実施行為について、当該「政令で定める処分」を受けるために必要であった期間、特許権の存続期間を延長するという方法を講じることによって、特許発明を実施することができなかった不利益の解消を図った制度である。したがって、審査官(審判官)が特第67条の3第1項1号により出願を拒絶するためには、①「政令で定める処分」を受けたことによっては、禁止が解除されたとはいえないこと、又は、②「『政令で定める処分』を受けたことによって禁止が解除された行為」が「『その特許発明の実施』に該当する行為」に含まれないことを論証する必要がある(「政令で定める処分」の存在及びその内容については、出願人が主張、立証すべきものである)。

(2) 本件事案について

原告は、①本件医薬品について、本件処分を受け、同処分によって、本件医薬品の製造等に関する禁止が解除されたこと、また、②本件処分によって禁止が解除された行為が、本件発明の実施に当たる行為を含んでいることについて、先行的に主張しており、上記原告の主張が肯定される場合には、特第67条の3第1項1号の拒絶要件を充足しないことになる。これに対し、先行処分の対象となった先行医薬品は、本件発明の技術的範囲に含まれないことは当事者間に争いがなく、よって、先行処分を受けることによって禁止が解除された行為は本件発明の実施行為に該当しない。したがって、先行処分の存在は、本件発明の技術的範囲に含まれる医薬品について医薬品製造承認を受けない限り、本件発明を実施することができなかった法的状態の解消に対し、何らかの影響を及ぼすものとはいえない。よって、先行処分の存在は、本件発明の実施に当たり、「政令で定める処分(本件では薬事法所定の承認)」を受けることが必要であったことを否定する理由とならない。

(3)したがって、特第68条の2の『物』と『用途』の解釈における説示の当否にかかわらず、先行処分の存在を理由として本件発明の実施に政令で定める処分を受けることが必要であったとは認められないから、本件出願は特第67条の3第1項1号により拒絶すべきであると判断した点に誤りがある。

《誤り2:先行処分に係る延長登録の効力の及ぶ範囲についての誤り》

審決が、先行処分を理由とする特許権の存続期間が延長された場合の当該特許権の効力を、「有効成分(物)」、「効能・効果(用途)」を同一とする医薬品に及ぶものと解して、原告の延長登録の出願に対して、政令で定める処分を受けることが必要であったとは認められないと判断した点に関し、特第68条の2の解釈上の誤りがある。

(1) 特第68条の2の趣旨

特第68条の2は、特許権の存続期間が延長された場合の当該特許権の効力は、その特許発明の全範囲に及ぶのではなく、「政令で定める処分の対象となった物(その処分においてその物に使用される特定の用途が定められている場合にあっては、当該用途に使用されるその物)」についてのみ及ぶ旨を定めている。これは、特許請求の範囲の記載によって特定される特許発明の技術的範囲が「政令で定める処分」を受けることによって禁止が
解除された範囲よりも広い場合に、「政令で定める処分」を受けることが必要なために特許権者がその特許発明を実施することができなかった範囲(「物」又は「物及び用途」の範囲)を超えて、延長された特許権の効力が及ぶとすることは、特許権者と第三者の公平を欠くからである。すなわち、特第67条2項所定の法律の規定による特許発明実施の機会の喪失という不利益の解消を超えて、特許権者を有利に扱うことは存続期間延長登録制度の趣旨に反することになる。

(2) 薬事法所定の承認のときの「物」(と「用途」)について

薬事法の承認の対象になった物(物及び用途)に係る特許発明の実施行為の範囲について検討する。
薬事法14条1項に係る承認に必要な審査の対象となる事項は、「名称、成分、分量、構造、用法、用量、使用方法、効能、効果、性能、副作用その他の品質、有効性及び安全性に関する事項」であり、薬事法上の「品目」とは形式的には上記の各要素によって特定されたそれぞれの物を指し、それぞれを単位として承認が与えられる。次に、特第68条の2によって、存続期間が延長された場合の特許権の効力の範囲を特定する要素について、実質的な観点から詳細に検討すると、品目を構成する要素のうち、「政令で定める処分」の対象となった「物」とは、当該承認により与えられた医薬品の「成分」、「分量」及び「構造」によって特定された「物」を意味する。なお、「成分」とは、有効成分に限定されない。
また、「用途」に該当するというためには、特許法上、「用途発明」として、保護されるべき内容を備えていること、すなわち、客観的な「物」それ自体の構成は同一であっても、「用途」が異なることにより、特許法上、「物」の発明として「同一」とは認められないと評価されるだけの内容を備えていることが必要である(「用法」、「用量」、「使用方法」、「効能」、「効果」、「性能」は、「用途発明」における「用途」に該当することがあり得る)。
したがって、特許発明が医薬品に係るものである場合には、その技術的範囲に含まれる実施態様のうち、薬事法所定の承認が与えられた医薬品の「成分」、「分量」及び「構造」によって特定された「物」についての当該特許発明の実施、及び当該医薬品の「用途」によって特定された「物」についての当該特許発明の実施についてのみ、延長された特許権の効力が及ぶ。もとより、その均等物や実質的に同一と評価される物が含まれることは、技術的範囲の通常の理解に照らして、当然である。

(3) 被告の主張に対し

ア 文理解釈について

特第68条の2の規定の存続期間が延長された特許権の効力の及ぶ範囲について、「物」を「有効成分」、「用途」を「効能・効果」とした範囲に拡大して解釈する文理解釈上の根拠はなく、また、その合理性もない。特第68の2が「当該用途に使用されるその物」と規定していることは、特許法が「物」の発明として「用途発明」を容認していると解する条文上の唯一の根拠であると解されるところ、医薬品に係る発明の特許要件の審査において、当該発明の「有効成分」及び「用途」が公知発明と同一であっても、「剤型」など「物」それ自体としての構成に異なる部分があれば、新規性が否定されることはないものとして扱われている。このような解釈および運用を前提とすると、特法68条の2についてのみ、「物」との文言を「有効成分」と解釈することは、文理上の根拠を欠く。

イ 立法の経緯について

(ア) 昭和62年改正法を審議・成立させた当時の国会の議事録及び国会に提出された法案を検討しても、国会において、被告の解釈を前提とするような審議がされた事実は認められず、「政令で定める処分の対象」となった「物」及び「用途」を、医薬品の場合には「有効成分」、「効能・効果」と読み替える特許法の規定上の根拠はない。
(イ) 法案の準備及び起草過程に関する資料である工業所有権審議会の議事録等を検討しても、被告の解釈を前提とするような記載は見当たらない。かえって、一つの特許権について、2度以上存続期間の延長登録がされることがあり得るという前提で立法されたことがうかがわれる。このような事実経緯は、審決の説示:最初の処分は、その物(あるいは当該用途に使用されるその物)について製造販売禁止を解除する必要があった処分であったということができるから、その処分に基づいて特許権の存続期間の延長登録の出願をすることができるが、2度目以降にされた処分については、その特許発明の実施に第67条第2項の政令で定める処分を受けることが必要であったとは認められないとして延長登録の出願を拒絶した;と相容れない。
(ウ) 被告が論拠とする通商産業省及び特許庁の内部資料「法令審査原案および関係資料」には、最初の製造承認に基づいてのみ延長登録が可能である旨の説明があるが、上記の説明は、「承認」を受けることによって、禁止が解除される範囲に関して、「薬事法の本質」や「規制のポイント」との用語を使って結論を導いているにすぎず、論理的な説明はされていない。薬事法の承認が、多くの要素で画された単位でされている以上、製造販売の禁止が解除される範囲は、「有効成分」や「効能・効果」で画された範囲よりも狭いはずである。物質(有効成分)で画された広範な範囲に解除の効果が生じるとする説明は、解釈論によって、特許権の存続期間の延長登録の出願の拒絶理由として、①「その特許権の存続期間が既に延長されたものであるとき。」、②「その特許発明が医薬品に関するものである場合において、当該発明が延長登録出願の理由とされた処分に先行する別の処分の対象となった医薬品と有効成分及び効能・効果において重複するとき。」を付加したのと同様の結果を導く事実上の立法をしたもので、合理的な解釈とはいえない。

ウ 薬事法の規制のポイントについて

薬事法は、有効性及び安全性の確保という目的のため、「名称、成分、分量、構造、用法、用量、使用方法、効能、効果、性能、副作用その他の品質、有効性及び安全性に関する事項」のすべてを規制している。医薬品の「成分」は、「有効成分」以外のものであっても、医薬品の有効性、安全性を左右することがあり、「分量」、「構造」も同様である。さらに、「用法」、「用量」、「使用方法」、「性能」、「副作用その他の品質」も、「効能」、「効果」と同じく、医薬品の有効性、安全性を左右するものである。そうすると、特に「有効成分」及び「効能・効果」が、薬事法の規制のポイントであるとは到底認められない。

エ 改善多項制の下での問題点について

2以上の請求項に係る特許権について存続期間の延長登録出願がされた場合に、請求項ごとに可分的な取扱いは予定されていないものと解される。例えば、薬事法所定の承認を受けた医薬品が、特許権の存続期間の延長登録の出願がされた特許に係る2以上の請求項のうち、ある請求項に係る発明の技術的範囲に含まれないときは、当該請求項については、特第67条の3第1項1号に該当することになるが、発明の多面的な保護を可能とするという改善多項制の立法趣旨に照らし拒絶されない。 このような実務を前提とすると、仮に、特第68条の2の「物」を「有効成分」と解釈するとしたならば、薬事法所定の承認を受けた医薬品を技術的範囲に含まない請求項に係る発明についてまで、存続期間の延長登録の効果を及ぼすことになり、そのような結果は、特許権者に不当な利益を与え、本来の存続期間の満了後に特許発明を実施しようとする者に著しい不利益を課すことになり、存続期間の延長登録の制度の趣旨に反する、不公平な結果を招く。

(4)以上のとおり、特第68条の2にいう「政令で定める処分の対象」となった「物」を「有効成分」であるとしてした審決の判断には、誤りがある。

結論 以上のとおり、原告主張の取消事由は理由があるから、審決を取り消す。

4.課題

この判決によると、既に承認を受けた医薬品と有効成分および効能・効果が同一であっても、例えば剤型が異なれば存続期間の延長登録出願が登録されることとなる。優れた医療価値を有する新製剤の保護向上が図られ、その研究開発のインセンティブも高まることが考えられる。その一方、新規な有効成分を特徴とする医薬品においては、剤型が違う等の後発医薬品には存続期間が延長された場合の特許権の効力は及ばなくなり、特許発明を実施することができなかった期間に特許権者が被った不利益と比較して、存続期間が延長された場合の特許権の効力が小さすぎるとの問題が生じることが考えられる。さらに、本判決は、延長された場合の特許権の効力は、均等物や実質的に同一と評価される物にも及ぶとしているものの、その範囲は不明確であり、さまざまな解釈が生じると思われる。

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以上

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