2025.07.08

【米国】プロダクト・バイ・プロセスクレームの特許性評価に関するCAFC判決

判決:Restem, LLC v. Jadi Cell, LLC No. 2023-2054 (Fed. Cir. March 4, 2025)

判決概要
 本事件は、特定の細胞マーカープロファイルを示す細胞のプロダクト・バイ・プロセス(以下、「PBP」という)クレームの特許性評価に関する。Restem社は、Jadi Cell社が保有する米国特許第9,803,176号(以下「本件特許」という)に対するIPRの決定(特許有効)を不服として上訴したが、CAFCは、先行技術に開示されたプロセスが必ずしもクレームされた細胞マーカープロファイルを有する細胞をもたらすとは限らず、本質的に本件特許クレームに先行するものではないとして、原審の判断を支持した。

本件特許クレーム
 特定の細胞マーカープロファイルを示す単離された細胞を製造するための製造プロセスを規定したPBPクレームである。
クレーム1(和訳)は以下のとおりである。
「以下の工程:
 哺乳動物の臍帯組織の上皮下層を培養基材と直接接触するよう配置する工程;および
 単離された細胞が上皮下層から自己複製および増殖が可能なように、上皮下層を培養する工程
を含むプロセスによって調製される単離された細胞であって、
 CD29、CD73、CD90、CD166、SSEA4、CD9、CD44、CD146、またはCD105からなる群から選択される少なくとも3つの細胞マーカーを発現し、
 NANOGと、CD45、CD34、CD14、CD79、CD106、CD86、CD80、CD19、CD117、Stro-1、またはHLA-DRからなる群から選択される少なくとも5つの細胞マーカーを発現しない、
単離された細胞。」

原審(IPR)の概要
 IPRにおいて、Restem社は、本件特許の細胞が先行文献(Majoreら)によって内在的に開示されているか、または先行文献から自明であると主張したが、特許審判部(PTAB)は、Majoreらの方法が本件特許のプロセスを内在的に満たしているとは認定しなかった。また、細胞マーカーの発現が、Majoreらの方法に必然的に含まれているわけではないため、内在的公知には該当しないとした。

控訴審(CAFC)の概要
 控訴審では、1)内在的公知事由(inherent anticipation)の有無と、2)クレーム解釈について、PTABの判断が妥当か否かが争点となった。

1)内在的公知事由の有無について
 Restem社は、先行技術が本件特許クレームの製造プロセスを全て開示していることから本件特許発明が自明であると主張したが、CAFCは、「先行技術に開示されたプロセスが、必ずしもクレームされた細胞マーカープロファイルを有する細胞をもたらすとは限らず、先行技術が本質的に本件特許クレームに先行するものではない」とのPTABの決定に同意した。さらに、内在的同一の立証に関して、CAFCは、単に先行技術が「似ている」または「同様の」プロセスを開示しているというだけでは不十分であり、そのプロセスが“必然的に”同一のプロダクトを生じることを示す具体的な証拠が必要であることを明確にした。

2)クレーム解釈について
 Restem社は、PTABが本件特許クレームの「配置」ステップを、明細書から追加のステップを組み入れることによって誤って解釈したと主張した。CAFCはこれに同意せず、PTABはクレームされたプロセスから先行技術を区別する事実認定の一部として追加的なステップを論じたに過ぎないとして、PTABの解釈に誤りはないとした。
 Restem社は、本件特許クレームの文言「単離された細胞(an isolated cell)」の解釈について、この文言は哺乳動物の臍帯組織の上皮下層から単離された細胞を意味し、「単離された細胞」は細胞集団(a cell population)である必要はないとして、PTABが「細胞集団(a cell population)」と狭く解釈したのは誤りであると主張した。CAFCはこれに同意せず、明細書がクレームされた発明を「細胞の集団」として記述していること、本件特許クレームが、特定の細胞マーカーを「発現する/しない」という文脈で「単離された細胞」に言及しており、細胞マーカーが発現しているか否かを決定する際に細胞の集団が使用されることは議論の余地がないことから、PTABの解釈に誤りはないとした。CAFCはまた、出願過程において、審査官が「単離された細胞」を「細胞集団」と解釈しており、これを出願人が黙認していた点も重視した。

実務上の留意点
・米国では、PBPクレームの特許性は、製法ではなく結果物としての生成物自体に基づいて判断される。本事件では、先行技術による内在的公知の証明には、先行技術の製法が“必然的に”同じ生成物を生み出すことを示す具体的な証拠が必要であるとされた。このことは特に、生物学的プロセスが関与するバイオ関連分野においては、求められる証拠水準が高く、特許無効を主張する側にとって証拠提出や技術的検証の負担が増すことを示している。
 一方、特許出願をする側にとっては、PBPクレームにおいて生成物の構造的・機能的特徴をより具体的に記載することが、先行技術との差別化を図る上で有力な手段となり得る。

・本事件では、クレームの文言解釈において、明細書の記載内容だけでなく、出願の審査過程も考慮された。このことは、出願中に審査官が示したクレームの解釈が、将来的にその特許の有効性や権利範囲に影響を及ぼす可能性があることを示しており、審査官の解釈を安易に受け入れることは、結果としてクレームの範囲を不必要に狭めるリスクを伴う。出願手続においては、審査官によるクレームの解釈に十分注意を払い、必要に応じて適切な反論を行うこと、反論を行う際には、クレームの文言を適切に用い、誤った解釈を招くような表現を避けるなど、慎重な対応が求められる。

(知財情報委員会)