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【日本】「製薬メーカーv.ジェネリック~ある差止請求訴訟における当事者の主張~」

IPニュース 2011.11.19
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担当:呉 英燦

1 概説
製薬業界において、医薬品の研究開発には莫大な費用と期間が必要であるところ、研究開発をした製薬メーカー(以下、「先発薬メーカー」という。)は、医薬品について特許権を取得することにより一定期間、独占排他権が付与される。その間に研究開発費用を回収して新薬の開発を目指していくわけであるが、一定の特許期間が過ぎると、特許権は消滅し、他の製薬メーカーが同種・同効の医薬品を自由に製造販売することができる。このような特許権消滅後に製造販売される医薬品は、一般に「ジェネリック医薬品」などと呼ばれる。
ジェネリック医薬品を製造する製薬メーカー(以下、「ジェネリック」という。)は、新薬をほとんど開発しないことが多く、先発医薬品の特許権が消滅すると、先発薬メーカーほど莫大な研究開発費用や期間を必要とせずに、ジェネリック医薬品をぞろぞろ発売し始める。このため、俗に「ゾロ」などとも呼ばれる。
しかしながら、現実には、特許権の消滅を待たずに、先発医薬品の製造販売を始める後発薬メーカーも少なくなく、訴訟にまで発展するケースも多い。
本稿では、「製薬メーカーv.ジェネリック」と題して、ある特許権侵害差止請求事件での当事者の主張の概要を紹介する。
なお、本事案は、未だ判決に至っていないため、当事者や対象医薬品の名称についての言及を差し控えることについてご留意願いたい。

2 事案の概要
本件特許権者である海外製薬メーカーXは、対象錠剤について実施権者Aによる製造販売承認の取得に基づき、日本国内においてAを通じて製造販売をしていたところ、被疑侵害者である国内ジェネリック数社Yらが特許権の存続期間の満了前に、対象錠剤について製造販売承認を取得し、販売を開始した。
これに対し、XおよびAは、Yらが販売する錠剤を入手し、分析試験を開始した。その後、Xは、分析試験結果を基に、Yらを被告らとして、訴えを提起した。

3 本件特許権
(1) 本件発明
【請求項1】
「式(式(II):ピペリジン誘導体)に対応する化合物を含有し;式(II)の化合物は微細粉粒化されていることを特徴とする、改良された溶解特性を持つ固体医薬組成物。」
【請求項4】
「式(II)の有効成分が以下の特徴;
200μmより小さい最大サイズ
0.5から15μmの間の数平均粒子サイズ
25μmより小さい、および好ましくは20μmよりも小さい粒子サイズを有する好ましくは数基準で90%の粒子を有することを特徴とする請求の範囲第1項記載の組成物。」
(2) 作用効果
抗ヒスタミンH1活性を有し、皮膚炎・アレルギー性疾患(例えば鼻炎、花粉症など)に有効である。
(3) 解決しようとする課題
本件発明の有効成分である化合物αは、固体剤形中に配合された時には水溶性の悪さに関連して不十分なバイオアベイラビリティーしか表さず、固体剤形中への配合は困難であった。
(4) 解決手段
「微細粉粒化された」化合物αから得られた固体剤形の医薬品は「微細粉粒化されていない」化合物から得られたものよりも約40%高い溶解初速度を示すという新たな知見に基づき、本発明者らは経口用新規固体製剤の開発に成功した。

4 属否の立証
上記のとおり、本件発明の特徴は、固形製剤中の有効成分α(式(II)の化合物)の粒子サイズにある。しかしながら、固形製剤中には有効成分α以外にも複数成分が混在しており、粉砕すれば粒子サイズが変化してしまう。そのため、被告ら製品の侵害(属否)を立証するためには、有効成分αを特異的に検出・分析できる手法が必要である。
そこで、顕微近赤外分光法および顕微ラマン分光法による分光学的手法を利用した。本法により固形製剤中の特定成分αの粒子サイズを選択的かつ非破壊的に測定可能である。

5 侵害論(属否論)
原告は、分析試験結果に基づき、被告ら製品の構成要件充足性を主張立証したところ、被告らは、特許請求の範囲に記載の用語「微細分粒化」、「改良された溶解特性を持つ」、「最大サイズ」、「数平均粒子サイズ」、「好ましくは」および「数基準で90%の粒子」について具体的意義が明らかでない旨主張した。これに対し、原告は、本件明細書および技術常識に基づき、用語の具体的意義を主張した。
分析試験について、被告らは、その立証限界および画像処理の不適切性を主張して、分析試験結果に信用性が認められない旨主張した。これに対し、原告は、学識者らの意見書を証拠として本法が粒子サイズ測定において技術的に確立しているなどとして合理的かつ正当な手法である旨主張した。

6 無効論
被告らは、権利行使制限の抗弁として、新規性欠如、進歩性欠如、構成要件不可欠要件(明確性要件)違反、サポート要件違反および実施可能要件違反を主張した。すなわち、本件発明の有効成分にかかる式(II)の化合物クレームを記載した公開公報に記載の「沸騰性の微粒体」なる記載に基づき、本件発明は新規性を欠如していること、当該公報と技術常識から微細粉粒化すれば薬物の血漿濃度が高まり溶解度が向上することは当業者であれば容易に想到する事項であり、かつ、請求項記載の粒子サイズの規定範囲は設計的事項であるから、進歩性を欠如していること、および特許請求の範囲に記載の上記各用語が不明確であることにより記載要件に違反していることを主張した。
新規性・進歩性について、原告は、本件発明が解決しようとする課題(αの溶解性の改善)自体新規であって、しかも溶解性を改善するための手段が多数存在していた中で「微細粉粒化」を採用したことについて引用発明には一切動機付けが存在しないこと、そして、仮に微細粉粒化を想起し得たとしても、微細粉粒化による多くの技術的阻害要因が存在していたことを主張した。記載要件については、特許請求の範囲に記載の各用語は、本件明細書の内容から明確であることを主張した。

7 さいごに
以上が、本件訴訟における準備書面に基づく当事者双方の主張内容である。本件の争点は、侵害論における分析試験報告書の分析手法の妥当性にある。この点、裁判所の心証としても、「判断が難しい」事件とされた。
本件訴訟を通じて、発明の技術内容を裁判所に理解してもらうことがいかに難しいかを痛感したのが個人的な感想である。一般的教科書を示しつつ、その教示内容を本件技術に当てはめて翻訳する。一見、難しい技術を如何に平易に、誤解なく伝えることが訴訟における弁理士の役割ではないだろうか。本件は、次回期日に判決言い渡しがされる。

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以上

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