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【日本】特許法第102条「損害額の推定等」に関する問題点

IPニュース 2011.11.17
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1. 問題の所在
特許法第102条1項但し書きの「販売することができない事情」を適用した後、3項の重複適用が許されるかどうかの問題。多くの裁判例では、事件の個々の事情を勘案して、損害額算定に当たりかなり高率の控除がされている。寄与率を低く見積もる、又は、第1項の「販売することができないとする事情」を大幅に認める裁判例が多いという現状がある。

2. 説例
「1項の適用により、侵害品400個分に対して4億円の損害賠償が認められたが、600個分の6億円は特許権者の「販売することができない事情」として損害額の算定から控除された場合、その600個分については、3項の重複適用が可能か?」

3. 従来
従来は、上記説例において、3項の適用(併用説)は当然可能とされていたが、最近の裁判例の動向は、これを否定する傾向にある。その代表的な裁判例として下記のものがある。

4. 裁判例:【ソリッドゴルフボール事件】<ツアーステージ 対 タイトリスト・ゴルフボール事件>平成22年(ネ)第10032号 特許権侵害差止等請求控訴事件(原審・東京地裁平成17年(ワ)第26473号)
■「販売することができないとする事情」Yの営業努力、ブランド力、他社の競合品の存在、60%がその事情に該当すると認定。1項の趣旨は、特許権侵害に当たる実施行為がなかったことを前提に原告の逸失利益を算定するもの。3項の趣旨は、実施料相当額を損害とするもの。1項で、特許権者の逸失利益を算定すれば、さらなる逸失利益は残っていないはず。よって、補充的に3項を適用するは、特許権者の逸失利益を超えた損害の填補を認めることになる。
■第一審判決も同様の判断。

5. 諸説
この問題については、1項と3項の併用を認める併用説と、併用を認めない併用否定説、その折衷説がある。併用否定説は、上記裁判例がその代表例の一つである。併用説は、従来、当然のこととして認められていたもので、1項適用において、控除された説例の600個分について、何の損害賠償も認めないとするのは、3項の最低保障の趣旨を滅却するものとの基本的考え方がある。折衷説の1つに、1項の「販売することができない事情」により控除された譲渡数量については3項の併用を認めないが、特許権者の実施能力超える部分についてのみ、3項の適用があるとするもの、がある。

6. 何れにしても、1項と3項の選択的請求、予備的請求自体は否定されていない。また、1項が適用された場合の、控除譲渡数量について、侵害者に対する不当利得返還請求権は認められている。思うに、特許法第102条が民法第709条の損害賠償に関する規定をベースとするものであれば、特許権者の逸失利益と因果関係がないとして控除された「販売することができない事情」による控除分を、3項を重複的に適用して損害賠償請求できるとするのは、民法第709条の原則に反し、説得性がない。その控除分に対しては、不当利得返還請求を行使するしかないのではないか。

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以上

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