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【日本】知財高裁平成24年5月28日判決(平成22年(行ケ)10203号)

IPニュース 2013.01.14
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本件は、原告が拒絶査定不服審判を請求したところ、進歩性の欠如を理由として審判請求は成り立たない旨の審決が示されたことから、原告が知財高裁にこの審決の取消しを求めた事案である。

1.本願発明と引用発明について
本願発明は、発明の名称を「腫瘍特異的細胞傷害性を誘導するための方法及び組成物」とする特許出願に係る発明であり、補正後の請求項1に記載された発明(以下、本願発明1)は以下のとおりである。

【請求項1】

細胞傷害性の遺伝子産物をコードする異種配列に機能的に連結されたH19 調節配列を含むポリヌクレオチドを含有する、腫瘍細胞において配列を発現させるためのベクターであって、前記腫瘍細胞が膀胱癌細胞または膀胱癌である、前記ベクター。
(以下、「調節配列」を「プロモーター」と称する。)

拒絶査定不服審判では、本願発明1は、引用例1に記載された発明および引用例3~6に記載された発明を組み合わせることにより、当業者が容易に発明をすることができたものであるとした。
本願発明1は、細胞傷害性の遺伝子産物をコードするDNAとH19プロモーターの組み合わせに特徴を有する発明である。これに対して、引用例1には、細胞傷害性の遺伝子産物をコードするDNAを別のプロモーターと組み合わせたベクターが記載されていた。また、引用例3には、H19遺伝子が腫瘍細胞で発現することが記載され、さらに、H19プロモーターは、引用例4~6に記載されて公知であった。

2.裁判所の判断
裁判所は、審決における本願発明と引用発明の一致点・相違点の認定には誤りはないとしたものの、容易想到性の判断には誤りがあるとし、審決を取り消した。
判決では、本件優先日当時、外来の遺伝子を送達して腫瘍(癌)を傷害する種々の試みがなされていたが、導入遺伝子を発現させるプロモーターの活性が不十分であるなどの理由のため導入遺伝子の発現が困難であったり、宿主の免疫反応が障害になったりすることなどにより、いずれも十分に成功していないとし、これが当時の当業者一般の認識であり、導入した遺伝子が発現しない現象があること自体は、当業者に広く知られていたとした。
また、引用例3からは、進行した膀胱腫瘍細胞においては内因性のH19遺伝子が発現している蓋然性が高く、腫瘍細胞に対して、H19遺伝子がプロモーター及びエンハンサーを機能させる手掛かりとして有望であるといえるが、引用例3を引用例1に適用して、腫瘍の障害という所望の結果を当業者が得られるかについては、本件優先日当時には未だ未解明の部分が多かったとした。
したがって、本願発明1は、引用例1に記載された発明および引用例3~6に記載された発明を組み合わせることにより、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないとした。
なお、本願明細書には、具体的に数値等を盛り込んで作用効果が記載されているわけではないが、明細書中の実験結果を参酌すると、本願発明1には、引用例1および引用例3~6からは当業者が予測し得ない格別有利な効果があるとしている。

3.所感
公知のプロモーターと公知の構造遺伝子の組み合わせには、通常、進歩性が認められないが、このような発明でも、技術水準を的確に主張することにより、進歩性が認められる場合があり、本判決はその事例の一つである。
公知技術の組み合わせに基づく発明は、「作用効果の顕著性」によって進歩性が認められる事例が多いが、この事例では、「発明の構成の困難性」(組み合わせの動機付けの否定)によって進歩性が認められている。一般に、「発明の構成の困難性」が認められるのは、本願発明に至る過程における「阻害要因」の存在が最も典型的であるが、この事例では、「出願時の技術水準」を示すことによって、組み合わせの動機付けが否定され、「発明の構成の困難性」が認められている。(なお、この事例では、本願発明の作用効果についても言及されているが、発明の構成の困難性の検討が進歩性の判断に大きく寄与している。)
この事例は、「作用効果の顕著性」や「阻害要因」が存在しない場合であっても、「出願時の技術水準」を示すことによって「発明の構成の困難性」を示して進歩性を主張するための実務上の手法を示唆するものといえる。「出願時の技術水準」を示すために、さまざまな文献を補完して説明している点も参考になろう。

http://www.ip.courts.go.jp/hanrei/pdf/20120530142940.pdf

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