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【日本】知財高裁平成25年10月16日判決(平成24年(行ケ)第10405号)

IPニュース 2014.04.02
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審決には,拒絶査定の理由と異なる拒絶の理由を通知することなく行った手続違背があるとして、審決を取り消した裁判例

本件は、拒絶査定不服審判を請求したところ請求不成立の審決を受けた原告が、審決取消訴訟を提起した事例である。争点は、審決には,拒絶査定の理由と異なる拒絶の理由を通知することなく行った手続違背があったかという点である。

1.本願発明
本願発明は、発明の名称を「殺菌消毒液の製造方法」とする特許出願(特願2005-218755号)であり、請求項1に記載された発明(以下、本願発明)は以下のとおりである。

【請求項1】
ジクロロイソシアヌール酸ナトリウム,次亜塩素酸ナトリウム,高度サラシ粉,クロラミンTの群より選ばれた塩素剤の水溶液に,炭酸水或は炭酸ガスを混入した後に,クエン酸,リンゴ酸,酒石酸,マレイン酸,コハク酸,シュウ酸,グリコール酸,酢酸,塩酸,硫酸,硝酸,硫酸水素ナトリウム,スルファミン酸,リン酸より選ばれる少なくとも一種の酸性物質の水溶液を溶解してpH調整を行うようにし,かつ,前記炭酸水の遊離炭酸濃度は100ppm~3000ppmであることを特徴とする希釈用濃縮殺菌消毒液の製造方法。

(注)ここにいう「前記炭酸水の遊離炭酸濃度は100ppm~3000ppmである」との特定事項における「前記炭酸水」は,その記載に先立つ「炭酸水或は炭酸ガス」における「炭酸水」を意味することは明らかであるから,上記特定事項は,炭酸源として炭酸ガスを用いる場合を特定するものではないと認められる。(判決文より)

なお、補正前の請求項とそれに対する拒絶の理由は、以下のとおりである。(現在の請求項1は、補正前の請求項1に請求項2が組み込まれている。)

【請求項1】(補正前)
少なくとも,ジクロロイソシアヌール酸ナトリウム,次亜塩素酸ナトリウム,高度サラシ粉,クロラミンTの群より選ばれ,好ましくは次亜塩素酸ナトリウムの水溶液を,炭酸水或は炭酸ガスで希釈した後に,少なくとも,クエン酸,リンゴ酸,酒石酸,マレイン酸,コハク酸,シュウ酸,グリコール酸,酢酸,塩酸,硫酸,硝酸,硫酸水素ナトリウム,スルファミン酸,リン酸より選ばれる少なくとも一種の酸性物質,好ましくは希塩酸水溶液を溶解してpH調整を行うようにしたことを特徴とする希釈用濃縮殺菌消毒液の製造方法。

【請求項2】(補正前)
前記炭酸水の遊離炭酸濃度は100ppm~3000ppmであることを特徴とする請求項1に記載の希釈用濃縮殺菌消毒液の製造方法。

<拒絶理由通知>
(ア) 理由1
請求項1のうちで,塩素剤として「次亜塩素酸ナトリウム」,炭酸源として「炭酸ガス」,酸性物質として「酢酸,塩酸,硫酸より選ばれる少なくとも一種の酸性物質又は希塩酸水溶液」を選択する態様と,引用発明との間に差異はない。
したがって,請求項1は,刊行物1に記載された発明(引用発明)であるから,特許法29条1項3号に該当し特許を受けることができない。

(イ) 理由2
請求項2と引用発明とは,①塩素剤の種類,②炭酸源が補正前発明1は「炭酸水」であるのに対し,引用発明では「炭酸ガス」である点,③酸性物質の種類,の点で相違するが,いずれも当業者が容易に想到できたものである。
また,請求項2と引用発明とは,④炭酸水の遊離炭酸濃度が,請求項2では「100ppm~3000ppm」であるのに対し,引用発明ではそのような特定がされていない点で相違するが,いずれも当業者が容易に想到できたものである。

2.審決
本願発明は「次亜塩素酸ナトリウムの水溶液に,炭酸ガスを混入した後に,塩酸の水溶液を溶解してpH調整を行うようにした希釈用濃縮殺菌消毒液の製造方法」との点で引用発明と一致し,相違点を有しないから新規性を欠如すると判断した。

3.裁判所の判断
特許庁が審決に先立ち行った拒絶理由通知は,補正前の請求項1の発明についてのみ,上記理由で引用発明と差異がないとの拒絶理由を通知し,実質的に本願発明に当たる補正前の請求項2の発明については,相違点が存在することを理由に,進歩性を欠くとの拒絶理由のみを通知したにすぎない。
この点、補正前の請求項1について新規性を欠くとする拒絶理由通知によって,炭酸源として炭酸ガスを選択する態様については引用発明と同一であるとの拒絶理由が,実質的には通知されていたと評価する余地もないわけではない。
しかしながら,出願人である原告において,この拒絶理由通知によって,補正前の請求項2の発明のうち炭酸源として炭酸ガスを選択する態様については引用発明と同一であるとの拒絶理由が示されていることを認識することは困難であったと考えられる。
そうすると,審決は,かかる拒絶の理由を通知することなく行った点で,特許法159条2項の準用する同法50条の規定に違反したものであるといわざるを得ず,出願人の防御権を保障し,手続の適正を確保するという観点からすれば,かかる手続違背は,審決の結論に影響を及ぼすものというべきである。

4.所感
拒絶査定不服審判において,審判官は,拒絶査定と異なる拒絶理由を発見した場合,これを審判請求人に通知し意見を述べる機会を与えなければならない(特許法159条2項で準用する同法50 条)。
これまで、審決において,拒絶査定で挙げた引用例に周知技術を追加して拒絶の理由を構成する場合,これが新たな拒絶理由を構成するか否かが問題となることがあるが、審判の実務では,新たな拒絶理由を構成しないものとして新たな拒絶理由を通知することなく拒絶審決を行う実務が多かった。その理由は,進歩性の判断は,出願時における当業者の技術常識に基づいて行われており,技術常識の認定まで、出願人に意見を述べる機会を与える必要はないためと考えられる。
しかしながら、本件判決の中で、手続違反か否かについて、出願人の視点に立ち「意見を述べる機会を、出願人へ十分に与えていたか否か」の検討がなされており、今後の審判実務において、このような視点から検討が進められる可能性が高いと考えられる。

http://www.ip.courts.go.jp/hanrei/pdf/20131021094813.pdf

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