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【カナダ】 控訴審におけるクレーム解釈の審理基準変更について

IPニュース 2016.05.14
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[判示事項]
2015年5月4日、Cobalt Pharmaceutical Company v Bayer Inc.事件において、カナダの連邦控訴裁判所は、控訴裁判所は一審裁判所のクレーム解釈に関する事実認定については、「明確かつ重大な誤り」(palpable and overriding error)が無い場合には、それに従うべきであるという意見を示した。

[事件の概要]
・当事者
控訴人、被控訴人(一審被告):Cobalt Pharmaceuticals Company他(「Cobalt」)
被控訴人、控訴人(一審原告):Bayer Inc.他(「Bayer」)

・Bayerは医薬品の特許2件を保有する特許権者である。Cobaltは後発医薬品の販売するにあたり、厚生省に販売承認を申請した。Bayerは、自社の特許が満了するまでは厚生省はCobaltに対して販売を承認すべきではないとして、Patented Medicines(Notice of Compliance)規則に基づき連邦裁判所(一審裁判所)に提訴した。Cobaltは、自社の製品がBayerの特許を侵害しておらず、また、Bayerの特許は無効であると主張している。

・連邦裁判所は、その判決において、1件の特許についてはBayerの主張を認め、もう一件の特許については、Bayerの主張を斥けた。そのため、BayerおよびCobaltともに判決を不服として控訴した。

・控訴審においては、一審裁判所による各特許のクレーム解釈が争われた。そこで、連邦控訴裁判所は、クレーム解釈のレビューに関し、連邦控訴裁判所がこれまで採用してきた「正確さ」(correctness)基準ではなく、一審裁判所の事実認定が専門家証言に大きく依拠している場合には「明確かつ重大な誤り」(palpable and overriding error)基準によりレビューすべきであるとした。この意見を示すにあたり、連邦控訴裁判所は、カナダの最高裁判所が契約書の解釈についてではあるが、同基準を採用すべきであるとの判断を示したこと、および米国の最高裁判所がTeva v. Sandoz事件において同様の基準を採用するに至ったことに言及した。

・連邦控訴裁判所は、「一審裁判所はほぼ常に、一審裁判所の裁判官が、信用でき、かつ正確であると考える専門家が提供する『ゴーグル』を通じて特許を理解している。」としており、一審裁判所の裁判官が、解釈の基礎となる事実および信頼性に関する認定を、最も良くなし得るものであるとの意見を示した。

・判決の概要
<Cobalt側の控訴について>
Cobaltが控訴裁判所に対して、一審裁判所が既に検討した証拠の重要性を再度検討することを求めたことについて、それは控訴裁判所の仕事ではなく、明確かつ重大な誤りの基準によってレビューすべきものではないとの判断が示された。また、Sound Predictionに基づく有用性については、Cobaltの主張がNotice of Allegationで提出した書類とは異なる書類に基づくものであったため、これを斥けた。

<Bayer側の控訴について>
クレーム解釈に関する控訴理由が否定され、(Cobaltの)非侵害の主張が正しいという一審裁判所の認定に再検討可能な誤りはないと判断して、Bayerの訴えを却下した。

*「明確かつ重大な誤り」基準:この基準の下では、控訴裁判所は、一審裁判所の裁判官が明確かつ重大な誤りをしたと認定した場合にのみ、一審裁判所の決定を覆すことができ、そうでなければ一審裁判所の決定は維持される。Canada v. South Yukon Forest Corporation, 2012 FCA 165, 431 N.R. 286.の判決においては、「『明確(Palpable)』とは、誤りが明白であることを意味し、『重大な(Overriding)』とは、誤りが事件の結論の核心に及ぶことを意味する。「明確かつ重大な誤り」であると反論する場合、葉や枝を引っ張るだけで、木がなお立ち続けているようでは十分ではない。木全体が倒れなければならない。」との説示がある。
*「正確さ」基準:この基準の下では、控訴裁判所は、一審裁判所の裁判官の意見を、自由に自身の意見で置き換えることができる。この基準は一般的には法律問題に適用されるものであり、控訴裁判所が、似たような状況で適用される法律において一貫性を確保し、また、立法機能を行使できるようにしている。

[その他]
米国最高裁判所がクレーム解釈の事実認定に関して同様の基準を採用したことを受けて、カナダでも同様の基準を採用すべきであるとの立場を連邦控訴裁判所が明確に示した。米国およびカナダにおいては、一審でのクレーム解釈が極めて重要になり、専門家の選任、および専門家に何を証言してもらうのかについての決定が、より重要になると考えられる。

Cobalt Pharmaceutical Company v Bayer Inc.事件 判決文

(弁理士 玄番 佐奈恵)

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